コラム Columns on Matured Hops

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ホップってハーブなの?

#1
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[ホップは伝統的なハーブ]
ハーブとは、香りや薬効などを通じて、心身の健康づくりに役立つ成分を含む植物のことを指します。単にお腹を満たすための作物というよりは、古くから香りづけや民間薬として利用されてきた植物と考えると、よりイメージしやすいかもしれません。

ホップもそのひとつで、古代から北半球各地でハーブとして用いられてきました。最もよく知られる機能は、睡眠を促す作用です。

インドの伝統医学「アーユルヴェーダ」では、ホップは睡眠促進に加えて、神経の緊張や頭痛をやわらげ、抗菌効果をもたらす薬草とされています1)。北米では、様々なインディアン部族がホップを様々な病気の治療薬として使用してきました2)。さらに歴史をさかのぼると、古代エジプトでホップが薬草として用いられていたことが報告されています3)。また、11世紀のアラビア語圏でもホップの薬効について言及した書物が出版されており、地域を問わず古くから人々の生活とともにあったことがうかがえます2)

ところがヨーロッパでは、8世紀頃に薬として使われた形跡はあるものの、ハーブの中ではマイナーな存在でしかなかったのです。そんなホップにスポットライトが当たったのは1516年4月23日、ドイツでの出来事でした。そうです。「ビールは麦芽とホップと水だけで造るべし」と、バイエルン公国のヴィルヘルム4世が「ビール純粋令」を制定した日です。

14世紀以降ビールの風味づけには、さまざまな種類のハーブが組み合わされて使われてきたのですが、ホップにはビールの保存期間を延ばす優れた抗菌作用があることが明らかになり、文字通り一夜にして、ホップはビールの主役に踊り出ることになりました。ヨーロッパではこれ以降に、何人もの学者がホップの薬効について述べていますが、薬草としてのホップの利用がヨーロッパで盛んになるのは、なぜかずっと後のことだったのです。ホップはビール用というイメージが強くなり過ぎ たからなのかもしれませんね。

参考文献
1) Int J Pharmacogn Phytochem Res. 2021;22(3):558–572.
2) Biendl M, Pinzl C. Hops and Health: Uses, Effects, History. German Hop Museum; 2013.
3) Life (Basel) 2022 Nov 29;12(12):1993.

ホップは世界一高価な野菜

#2
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北半球の各地でハーブとして用いられてきたホップは、大昔から野菜としても知られていました。1世紀にはサラダとして食べられていたことが、プリニウスの「博物誌」に記されています。

ホップをどのように食べていたのかというと、ホップシュートあるいはホップスプラウトと言われる、春先に地面から出てくる新芽の部分を食べていました。細いアスパラガスのような見た目から、「ホップアスパラガス」とも呼んでいたようです。春のわずか数週間しか食べられない山菜として、古くから楽しまれてきたのです。

食感はアスパラガスに近く、ナッツの香りがするホップスプラウトは、ベルギーの郷土料理として有名です。ところが収穫に手間がかかるために出荷を諦める農家が増え続け、いまでは高級レストランでしか取り扱えない食材になってしまいました。ホップスプラウトの価格は場所によっては10万円/kg以上。ホップは、世界一高価な野菜としても知られる存在なのです。

※100グラム約2,500円(約20ユーロ)以上。ホップスプラウトが一般流通しているベルギーでの価格
参考文献
・メディカルハーブ事典
・ハーブ&サプリメント NATURAL STANDARD による有効性評価

世界でのホップの使われ方

#3
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ホップはハーブの一種として、古くから健康維持に役立つ植物として利用されてきました。特にヨーロッパでは、先史時代からその活用が始まっていたとされ、古代ローマ人はホップの若芽をサラダとして食用にし、葉や花穂を染料や薬草として用いていた記録も残されています。

中世に入ると、ホップは薬草としてさらに広く用いられるようになりました。たとえば、不眠対策としてのホップ枕や、鎮静・消化促進効果を期待したホップのハーブティー、体内の余分な水分や老廃物の排出を目的としたデトックス薬としての利用など、多様な形で人々の健康を支えてきました1)。また、一部の地域では、ホップを入れた薬湯(ホップ湯)に浸かる習慣も見られます。

一方、アジアにおいてもホップは伝統的な薬草として位置づけられてきました。中国の伝統医学では、ホップは神経を鎮め、心を落ち着かせる漢方薬のひとつとして用いられ、不眠や食欲不振の緩和に活用されています2)。また、インドのアーユルヴェーダにおいても、ホップは鎮静作用をもたらすハーブとして知られ、不安感や不眠、頭痛の軽減に役立つとされています。

このように、ホップはビールの原料というイメージが強い一方で、世界各地の伝統医学や民間療法において、人々の健康を支えてきた歴史ある植物でもあります。その背景を知ることで、ホップという植物への理解や見方がより深まるかもしれません。

参考文献
1) Antioxidants (Basel). 2022 Jan 27;11(2):241.
2) German hop museum wolnzach. Hops and Health. 2008.

苦味の力

#4
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■ 苦味はカラダを守るためのスイッチ
人間が食べ物に対して味覚を発達させてきたのには、生存上の理由があります。たとえば、甘味はエネルギー源となる糖質を識別するため、酸味は腐敗を検知するため、そして苦味は有毒物質を察知するための感覚とされています。苦味を摂取すると、毒を感知したときと同様に「ストレス応答」と呼ばれる生体反応が起こり、それに伴い抵抗力や回復力の向上に関与する生理的効果が発揮される可能性が示唆されています1)

■ 苦味の受容体は25種類
甘味や塩味の受容体がそれぞれ1種類ずつであるのに対し、苦味の受容体は人間の体内に25種類以上存在することが知られています。これは、自然界に多様な毒性物質が存在することへの適応と考えられています。さらに、これらの苦味受容体は舌だけでなく、小腸などの消化管にも分布しており、体内でも苦味を検知して脳へ信号を送る仕組みがあります。「熟成ホップ」は舌での苦味を抑えつつも、小腸の苦味受容体を通じて機能的に“苦味”として認識されると考えられています2)

■ 苦味と健康機能
「良薬は口に苦し」という言葉に象徴されるように、苦味のある植物は古来、薬効を持つものとされてきました3)。西洋では、古代ギリシャの医師ヒポクラテスや哲学者テオフラストスが、「苦味は薬効」「甘味は栄養」と述べています4)。中世ヨーロッパでは、複数の薬草を調合して作られた苦味酒「ビターズ」が胃腸薬として活用され、代表的な「アンゴスチュラ・ビターズ」は兵士の消化不良を緩和する目的で開発されました。現在では、カクテルの風味付けにも使われています。

■ 苦味と今後の研究
近年、苦味に関する生理学・分子生物学的な研究が進み、以下のような知見が得られています。
・苦味受容体は、舌以外にも消化管・気道・脳など多様な組織に存在し、代謝調整や免疫応答にも関与する可能性がある5)
・遺伝的な苦味感受性の違いが、野菜摂取量や健康習慣に影響を与える5, 6)
・気道に存在する苦味受容体の刺激が気管支の拡張作用をもたらす7)
これらの知見は、苦味が単なる味覚のひとつにとどまらず、生体調節機能を担う可能性を示しています。
今後、苦味を活用した機能性食品や創薬の分野において、より多くの応用が期待されています。

引用文献
1) 別冊日経サイエンス222 食の未来 地中海食からゲノム編集まで.
2) Biomolecules 2020 Jan 13;10(1).
3) Chem Biol Drug Des. 2018 Feb;91(2):422-433.
4) J Ethnopharmacol. 2015 Jun 5;167:30–37.
5) Nutrients 2021 Apr 16;13(4):1317.
6) Food Funct. 2023 Oct 16;14(20):9243-9252.
7) The International Journal of Biochemistry & Cell Biology 2016 Aug 77: 197-204.

カラダとココロとアタマの
ケアの重要性

#5
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健康的な毎日を過ごすためには、カラダやココロ、アタマをバランスよくケアすることが重要です。近年の研究では、これら3領域は相互に密接に関係していることが明らかになっています。

1. 体脂肪と認知機能の関係
世界保健機関(WHO)は、認知機能低下のリスク因子のひとつとして「肥満」を挙げています1)。体脂肪が過剰になると、アディポカインや炎症性サイトカインの分泌異常を引き起こし、脳内の炎症を促進することが報告されています2)。また、BMIが高い人ほど認知機能の低下リスクが高いとする研究もあり、内臓脂肪の蓄積はインスリン抵抗性を高め、認知症発症のリスク上昇に関与すると指摘されています2)。さらに、海外の疫学研究では、40〜45歳で肥満な男性は、加齢とともに記憶力や実行機能が低下しやすい傾向にあることが示されています3)。こうしたデータは、アタマの健康を維持するためにはカラダの健康管理が不可欠であることを裏付けています。

2. メンタルと認知機能の関係
認知機能とメンタルヘルスは、いずれも脳に関連するため、両者は密接に関連しています。慢性的なストレスは、記憶を司る海馬の萎縮を引き起こすことが知られており、特にストレスホルモン(コルチゾール)は海馬に対して強く作用します。その結果、過剰なストレス状態は認知機能の低下を加速させる可能性があります4)。また、うつ病は認知機能に悪影響を及ぼすとされ、前頭葉の活動が低下し、意思決定力・注意力・記憶力の低下につながると報告されています5)。うつ病もまた、認知機能低下の独立したリスク因子として注目されています5)

3. 体脂肪管理とメンタルケアの複合的アプローチ
アタマの健康維持に向けては、体脂肪を適正範囲にコントロールするとともに、ストレスを抑制する生活習慣を取り入れることが有効です。食事面では、低糖質・高品質な脂質・抗酸化食品の摂取などが推奨され、運動面では有酸素運動と筋力トレーニングをバランスよく取り入れることが重要です。メンタルケアの側面では、瞑想・ヨガ・呼吸法などのマインドフルネス系習慣、適度な運動、そして質の良い睡眠の確保が、ストレスホルモンの分泌抑制や脳内老廃物の除去に寄与します6)

■ まとめ
このように、カラダ・ココロ・アタマは互いに深く関わり合っています。いずれか一つに偏るのではなく、3つの側面をバランスよく整えることこそが、認知機能の長期的な維持や生活の質(QOL)の向上につながると考えられます。日々の生活の中で、無理なく継続できる範囲で、体脂肪の管理やメンタルケアを取り入れること。それが未来の自分への、最良の健康投資となるはずです。

引用文献
1) Risk reduction of cognitive decline and dementia”: WHO guidelines.Geneva: World Health Organization; 2019.
2) Eur Neuropsychopharmacol. 2014 Dec;24(12):1982-99.
3) BMJ. 2008 Oct 28;337:a1939.
4) Nat Rev Neurosci. 2009 Jun;10(6):434-445.
5) Psychol Med. 2014 Jul;44(10):2029-2040.
6) Brain Sci. 2020 Nov 17;10(11):868.

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