免疫力を正常に保つには? 免疫低下に関わる要因

免疫の低下には、加齢、ストレス、運動、睡眠などが関連することが知られています。

01加齢と免疫

生後、人は、外の環境に身をさらすことで免疫力を高めていきます。免疫機能は20代でピークを迎えると、加齢により徐々に低下します。

加齢による免疫機能の低下

20代でピークに達し、その後徐々に低下

(参考:「からだと免疫のしくみ」日本実業出版)

02ストレスと免疫

慢性的なストレスは免疫力を低下させます。ストレスは、適度なものであれば、良い効果をあらわしますが、これが過度になった際には急激に体調の不調を引き起こすのです。

03睡眠と免疫

昔に比べて減少傾向にあるといわれている睡眠時間。実は、よく眠れないほど風邪をひきやすくなることが報告されています。
外敵から身を守る免疫システムと睡眠とが関連することがうかがえます。

風邪のひきやすさと熟睡度の関係

風邪をひいた人の割合 きちんと眠れない人ほど風邪をひきやすい

※床についてから実際に入眠に至るまでの効率

Cohen, Sheldon, et al. "Sleep habits and susceptibility to the common
cold" Archives of internal medicine, 169.1(2009):62-67より一部改変

04運動と免疫

激しい運動によって一時的に免疫機能が低下することが知られています。この現象は「オープンウインドウ」と呼ばれ、運動する人にとっては大きな問題となります(下左図)。
実際に、一流のアスリートや、激しい運動を行っている人は、一般的な人に比べて、感染症の罹患率が高いことが報告されています(下右図)。

激しい運動による一時的な免疫抑制

免疫機能/時間 一般的な免疫力の低下

参考:運動すれば風邪をひかなくなりますか?, 人文科学論集,
Vol 57 (2011.3) 一部改変

ハードトレーニング後の風邪罹患率

罹患率 激しい運動で風邪をひきやすくなった

**は有意水準0.01で、統計学的に有意差あり
出典:Med Sci Sports Exerc. 26:128-139 (1994)

05肥満と免疫

一見、あまり関係がなさそうに思える「肥満」と「免疫」。実は密接に関係しており、肥満、特に内臓脂肪型肥満の人は、免疫機能が低下しやすいことがわかってきました。そこで、日本医科大学医学教育センター副センター長の北村義浩先生に、「肥満と免疫の関係」についてお伺いしました。

北村義浩

解説・監修:北村義浩 先生
日本医科大学医学教育センター副センター長、
特任教授。
医学博士

「肥満」と「免疫」にはどんな関係があるのですか?

近年、脂肪、特に内臓脂肪と免疫の関係が注目されています。内臓脂肪型肥満者の体では、内臓脂肪組織から分泌されるホルモンのバランスが乱れて持続的な全身の炎症状態=「慢性炎症」が起こっています。この慢性炎症が免疫機能の低下をもたらし、感染症の重症化などを引き起こしてしまうのです。

肥満が炎症状態である、といってもあまりイメージがわかないのですが・・・。

細菌やウイルスなどの外敵が侵入した際に、患部が腫れたり赤くなったりするいわゆる急性炎症とは違い、慢性炎症は外敵がいないにも関わらず、免疫機能が常に戦闘モードになっている状態です。本来は外敵と戦うための免疫システムが敵もいないのに誤作動している暴走状態ですから、いざ外敵と戦う時にパワーダウンしてしまうだけでなく、自分の正常な細胞まで傷つけてしまうという点で、ダブルに悪い状態なのです。なので逆に言えば、肥満という炎症状態を解消することは免疫力アップに繋がるともいえますね。

実際、肥満の人が細菌やウイルスに感染すると、どんな危険性があるのですか?

実は新型コロナウイルスに関する報告において、「肥満の人は普通体重の人に比べ、ICUに入る割合が高く、重症化率も高い」ということが明らかになっています。
肥満の人がウイルスに感染すると、内臓脂肪組織内の慢性炎症が急激に悪化します。サイトカインと呼ばれる、免疫細胞を活性化させるたんぱく質が爆発的に放出されて、先ほど言ったように、免疫が暴走状態になってしまうのです。これをサイトカインストームと言います。過剰に活性化した免疫細胞は自分の正常な細胞も攻撃してしまうので、感染症の重症化につながってしまうのです。

サイトカインストーム解説図

肥満が生活習慣病の原因になるとはよく聞きますが、免疫も下がってしまうとは初めて知りました。
感染症にかかりやすくなってしまうのですね。

そうですね。でも免疫には細菌やウイルスと戦う以外に、老化した細胞や組織の傷の修復という大事な役目もあります。慢性炎症によって免疫機能が劣化、あるいは暴走すると、この役目もうまく果たせなくなります。全身の血管の老化も進みやすくなるほか、年齢の割にしわやシミも多い老け顔にもなってしまいます。

それは恐ろしい・・・。免疫はアンチエイジングにも重要なのですね!

その通りです。これまで説明した通り、内臓脂肪と免疫は相互に影響していますから、同時に適正化することはかなり強力な健康術と言えます。食習慣を改善したり、適度な運動を取り入れたりすることが非常に重要ですね。

食事の偏りやリモートワークによる運動不足が気になる方も多いと思いますが、まずは食習慣の改善、そして散歩や体操などの軽い運動から始めてみましょう!時には内臓脂肪や免疫ケアにフォーカスしたサプリメントを上手に取り入れて、感染症にも生活習慣病にも負けないカラダを作りましょう。

キリンは、継続的な運動が
免疫機能に与える影響について
研究しています

キリンは、順天堂大学との共同研究により、継続的な運動が免疫系に及ぼす影響について検討を実施しました。運動部に所属する大学生22名を対象として、14日間の継続的な運動期間における、免疫の司令塔プラズマサイトイド樹状細胞(pDC)の活性を測定しました。その結果、pDCの活性は、運動前と比較して、運動後に有意に低下していることが明らかになりました。この試験結果からも、激しい運動が免疫力の低下を引き起こすことが推測されます。

試験スケジュール

免疫機能への影響

HLA︲DR(pDC活性化の指標) 継続的な運動でpDCの活性が低下

出典:第72回体力医学会(2017年)